SSブログ

アテンド悲話【本社役員編】

 海外駐在員の宿命というか、やっていて一番イヤな仕事のナンバーワンはアテンドでしょう。ちなみにアテンドというのはひとりでは何もできないくせにわがままだけは言いまくりのお客さんやら日本からの出張者やらのお世話をするアレです。

 中には本社の役員なんかの前で自分の株を上げるチャンス!とばかりに張り切る駐在員もいますが、そういう人は普段の仕事を全くしないので、それもひとつの生き方と言えるかもしれません。

 とにかく「旅の恥はかき捨て」とはよく言ったもので、本当に日本人で外国に来て背筋がしゃんと伸びる人はかなり少なく、逆に浮かれちゃって普段はやらないようなことまでやりたがる人が多いのは困りものです。「せっかく来たんだから」と思っちゃうのでしょうね。

 駐在員となると外国とは言え「普段生活している場所」ですから、その行動は日本にいるときと同様に自制心が働きます。
 旅の恥はかき捨ての人たちと一緒になってみっともないことをして、明日以降ローカルスタッフに白い目で見られたくはありません。

 さて、彼らが犯す一番質の悪いものは予定を簡単に変えることです。
 こちらはただでさえ日本と違って時間におおらかな国で、朝ホテルに迎えに行くためには何時起床で、車の手配はこうで、渋滞もあり得るからこのくらいの余裕を持って・・・と何週間も前から練りに練ったスケジュールを立てますが、それをその場の気分でひょいと変えてしまいます。「できないとはなんだ!」
 こちらとしては「今はまだ午前中一番の予定だぞ?この変更が後ろのスケジュールにどういう影響を及ぼすのか分かってんのか、あんたは?」と言いたい気持ちをぐっとこらえて、「わかりました」とにっこり答えます。

 昼食ひとつとっても日本とは違います。日本のように席に座ったらさっとおしぼりがやってきて、パッとランチメニューが目の前に差し出されて、「おい、みんな日替わりでいいよな?」なんてできっこありません。「昼食に1時間もいらないだろう!」・・・頼むからドシロウトは黙っててくれ。
 しかも同席している中国人との通訳もさせられて、こちらは何も口にできません。おまけに「おい、トイレはどこだ?」と小便にもひとりで行けない始末。どのツラ下げて偉ぶっていられるのか、その神経がわかりません。

 あれこれバカどものケツを拭きながらようやく一日の仕事が終わると、どこぞで中華料理を食わせて、事務所のローカルスタッフを帰します。
 すると案の定、「おい、まだ時間も早いし、どこかで一杯やるか」と来ます。・・・わかってるよ、キミたちが楽しみにしていたメインイベントはそれだもんな。

 「仕方ねえ。付き合ってやるから、好きなところ言えよ」と言ったところで、どこに行ける連中でもありませんので、「それじゃあ、上海らしく派手なところに行きましょう」とオネーチャンがわんさかいるところに連れて行きます。

 わんさかいるところに連れて行くのはアテンドの基本です。
 なぜならスナックのようなママが勝手に女のコを座らせるところでは、彼ら(好み)とお店(持駒)の両方に通じていなければなりません。組み合わせが悪いとトラブルを招きますので、自分で好きに女のコを選ばせます。女のコが気に入らなくても選んだ自分のせいだぞ、と。

 しばらく注意しながら様子を見ていますと、さすが自分で指名しただけに女のコがお気に召した様子です。彼女の日本語もなかなか上手なようで話が弾んでいます。
 あとはひたすら時間が過ぎていくのを待ちますが、常に周囲に気を配りつつ、ピエロにも盛り上げ役にもならなければなりません。
 「歌が終わるぞ、拍手の用意」「彼のグラスにお酒を足して」「新しいおしぼりを持ってきて」「部長の機嫌はどうだ」「歌本を彼に渡そう」・・・もう、キリがありません。

 しかも場の雰囲気を壊さないようにする程度に、少しは自分の隣に座ったオネーチャンの相手もしなければなりません。なんでだよ、カネ払ってるのはこっちなのに。
 しかし私の場合、彼女たちとの会話は既に脳内でマニュアル化されていて、もう何度となく繰り返した会話を今日もまた繰り返すだけです。
 「こんばんは、私はユミでーす。よろしくお願いしまーす。」
 「ああ、よろしく。」
 「お客さんのお名前を教えてくださーい。」
 「坂本龍一。」
 「へー。あなたはとても若く見えますねー。何歳ですかー?」
 「そう言うキミはいくつ?」
 「何歳に見えますかー?」
 ・・・実におもしろくありません。なんだって女は自分の年齢を聞かれると素直にバシッと答えないのでしょうか?これに続く会話としては「どこから来たの?」「安徽省」というのがありますが、もういいでしょう。

 さて、さんざん飲んで歌って女のコと話もして深夜12時を回りました。明日は8時に迎えのクルマがホテルにやってきます。もうそろそろオヒラキにしなければなりません。
 「そろそろお時間が・・・」
 「まだ、いいじゃないかー!」
 バカタレとしか言いようがありませんが、仕方ありません。
 しかしオマエは7時に起きて朝飯も食えるが、こっちはホテルまで迎えに行くために自宅を何時に出なきゃ行けないと思ってるんだ?オマエがやっと起きる朝7時には出発だぞ?そのためには何時に起きなきゃいけないんだ、6時か?その前にこれからオマエをホテルまで送る人は誰だか分かっているのか?

 結局バカタレは1時まで騒いでから、女のコに「明日また来るねー」とか名残惜しそうに言ってようやくクルマに乗り込みました。
 もはや運転手は「こんなに遅くなるなんて話が違う、最初に聞いていた金額では承知できない」とぷんぷんです。こっそりカネを渡して、「ちゃんと明日の朝も来てくれよ」と車中でこんこんと説得します。後ろからバカタレどものいびきが聞こえます。

 明日の準備を終えて家に帰ってシャワーを浴びて布団に入って時計を見たら、もう3時です。こんな調子が彼らが出張中の一週間続きます。

 最終日、もはや出張者も駐在員も体力の限界です。お客さんと飲んで遅くなっても、そのあとで必ず立ち寄るくらいお気に入りになってしまったあの店に通い続ける彼ら。何が彼らをそこまで駆り立てるのでしょうか?もはや駐在員の頭の中では、早く飛行機に乗って落ちてくれ帰ってくれとそれしかありません。

 しかし先日聞いた駐在員仲間の話はもっとひどく、70歳近いジジイ(有名企業OB)が深夜2時過ぎてもうお店も閉店ですというのに、ずっと女のコの手を握って離さず「オレはこの女と寝るんだー!なんとかしろー!」と店内でわめき叫んで、周囲をたいへん困らせたという話も聞きました。

 はーあ。本当にイヤになります。


nice!(5)  コメント(14)  トラックバック(3) 
共通テーマ:仕事

nice! 5

コメント 14

タカ

まーそれも給料のうちじゃないですか。
自分で望んで海外勤務したわけではないかもしれないけど、確実に日本に居たら出来ない経験が出来てスキルがあがる(人にもよりますが!)わけですから。
中国での勤務経験はないですが、ロンドン駐在していた時はまったく同じ経験をして、まったく同じ思いをしました。
by タカ (2005-07-22 15:59) 

rinda

ほんとにお疲れ様です・・・。
駐在員の心の叫びを聞いた気がします(^^;)
健康であること(肝臓が強い!)が、一番駐在員に求められるのかも。
ね、坂本龍一さん♪(笑)
by rinda (2005-07-22 16:20) 

pochi

役員が来るとなんで駐在員総出で接待するんですかね?
アレ不思議です。

同じ社内なのにね。

・・・そういうオイラもまだまだ自由に中国を歩くことできませんけど。
by pochi (2005-07-22 18:40) 

>後ろからバカタレどものいびきが
こういう輩は、そのまま貨物列車にでも乗っけてポイしちゃってもOKです。
というのは冗談ですけど、企業の大小や有名無名にかかわらず、ネジがはずれていくのは男だけでしょうか?
日本からのお客さんが女性の場合はどうでしょう?
その場合は、また違った苦労があるのでしょうね。
by (2005-07-22 19:03) 

三平太

いやいや本当にご苦労さまです。イギリスでは働かない現地社員の後始末と、日本からの期待の板挟みで毎日深夜まで勤務という駐在員の方に多くお会いしました。「どこからきたの?」「安徽省」と言うのは笑えますね。15年前中国を旅行中に、広州の三元里というウイグル人の多い地区に「拉麺」を食べに行った時、「どこからきた?」と聞かれて、現地に留学中の友達が「北方からきた」と答えたことがあります。
by 三平太 (2005-07-23 02:37) 

Tobermory

>タカさん、はじめまして。私のような者はスキルが伸びているとは思いませんが、おっしゃる通り日本にいてはできない経験だけはたっぷりさせてもらっています(笑)。ロンドンでも上海でも、父の話では30年前も、海外駐在員の仕事は同じようですね。

>rindaさん、こんにちは。坂本龍一です(笑)。勤め先(本名)や携帯電話の番号を教えると、小姐からグリーティングカードやらお誘いの電話やらメールが来るので、テキトーに名乗っています。でも知り合いと行くと本名で呼ばれるのですぐにバレますけどね(笑)。ほかにも「滝廉太郎」とか「福沢諭吉」など、思いついた名前を名乗っては楽しんでいます。

>pochiさん、こんにちは。ホント、不思議ですよね。日本であれば地方でもそんなことめったにありませんよね。やはり日本人にとって外国とはまだまだ特別なところなのでしょうね。

>TheBoxcarさん、こんにちは。「そのまま貨物列車にでも乗っけてポイ」には大笑いさせていただきました。ところで女性には女性の「ネジの外れ方」が存在します。今後の「アテンド悲話」シリーズにご期待ください。

>三平太さん、初めまして。nice!とコメントをどうもありがとうございます。日本人駐在員の苦労は世界共通なんでしょうね。私もよく中国人に「どこの人?」と尋ねられますが、気分によって「東京」「遥か東」「太平洋に浮かぶ島」などテキトーな答えをしては相手の反応を見て楽しんでいます(笑)。
by Tobermory (2005-07-23 16:42) 

sanbonmatsu

海外駐在員って、こんな仕事があるなんて想像してませんでした。
お疲れさまです。
ある意味ツアー客である我々も、現地ガイドさんに対して行っている行為は近いものがあるのかも知れません・・・。(ただし、お金は払ってますが。)
by sanbonmatsu (2005-07-23 18:08) 

あおい

やはりTobermoryさんはアテンド大王です。
男性にはこういう夜の遊びが必ずといっていいほどついて回りますよね。
わが夫も、北京駐在時代からこれらをやってまして、当時まだ20代だったものですから、カラオケ代を人数分けで支払われると、、かなり家計が大変でした。出張者のみなさんは年齢もあるし、役職手当やら、出張手当やら色々とついてて、1000元の支払いくらい「没問題」でしょうが、こちらはフツーの平社員で、フツーに生活してますからね。
トラックバックしたい気分ですが、きっと私、色々と書いてしまいそうで、怖いです。(^^)
by あおい (2005-07-23 21:21) 

くま

Tobermory さん
後付ですが。。。トラバしちゃいました。
おもっきり同感です。
とっとと一人で行って来い!って感じです。
2年前。。。オイラのマンションに泊まった出張者は
帰って来るなり、小姐に電話!
次の出張では、小姐にプレゼント!
そのくらい真剣に仕事もしろ!
ですよね~
by くま (2005-07-24 00:04) 

Tobermory

>sanbonmatsuさん、こんばんは。所詮、上海駐在の姿なんてこんなものですよ。はっきり言って本社もこれを期待しているためだけにオレを駐在させているのか?と考えたりもします(笑)。ツアー客との比較は一概にできませんが、旅行会社の提示したスケジュールを変更しようとする客はさすがにいませんよね?

>私はまだまだ修行が足りませんよ、あおいさま。でもあおいさまにこのテの話をしてもらったら、きっと私なんかよりおもしろいお話が聞けそうです。しかも女性の視点なんだけど、男らしいというあおいさまの視点でね(笑)。カネがかかるのはおっしゃる通りです。食事だって私は家に帰ればちゃんとメシがあるのに、基本はワリカンですからねー。誰のためにオレがここでメシを食っているんだかわかっているのか、と(笑)。

>くまさん、後付けTB恐れ入ります。本当は記事をUPする前にくまさんのところに行っていれば、私の方がTBさせていただいたところでした。しかしどこも同じですね。上海出張は比較的リピーターが多いので、カラオケ小姐にハマる出張者が多いと聞きます。ウチも以前は仕事しにきてんだか小姐に会いにきてんだか、そんなヤツばっかりでした。
by Tobermory (2005-07-24 02:21) 

masa

どうも、はじめまして。
上海駐在歴1年ちょっとの青二才駐在員です。
私も日々アテンドには苦労しています。
うちの会社は女性の出張者が多いので
安易にカラオケって訳にはいかず
本当に苦労しています。
日々ウォーカー等の日本人向け雑誌を熟読し
何かこじゃれたよさげな店はないかと
探しています。
切り上げる時間は早いが気を遣いまくる女性出張者と
夜遅くまで体力勝負だがカラオケに行って
おねぇーちゃんを付けておくと鼻の下の伸びてる
おっさん出張者及びおっさん顧客。
まぁ、どっちも嫌ですが
当たりのおねぇーちゃんを引いてくれたら
大人しいおっさんの方が私は楽な気がします。
Tobermoryさんはどう思われますか?

また、ちょくちょく来たいと思いますので
よろしくお願いします。
by masa (2005-07-25 23:55) 

Tobermory

masaさん、はじめまして。青二才は私もご同様です、一緒に頑張りましょう。
ところで女性のアテンドにお困りのようですね。私もあまり偉そうなことは言えませんが、ひとつだけアドバイスさせていただくなら、女性は意外と(失礼!)勉強好きで自分の楽しみのためなら努力を怠らない方が多いので、masaさんから「行きたいところを考えておいてくださいね。あとで一緒に相談しましょう」と相手に振ってみてはいかがでしょう。もちろん「この店はこんなカンジ、その店には僕のボトルがあるよ」と言えるくらいはあちこち行っておかなければなりませんが。どうぞ頑張ってくださいね。
ちなみに私は仕事がらみはどっちもしんどくて、友達となら男女問わず疲れ知らずです。
by Tobermory (2005-07-26 00:13) 

masa

確かにおっしゃるとおりです。
海外旅行好きの人ならウォーカー片手にいろいろ勉強しています。
そんな人は「ここ行きたーい」ってリクエストしてくれるので
割と楽ですね。

でも、中国で出かけるの不安って感じの子は
好みはどんなのなんだろうと日頃の会話で
探るのに結構気を遣います。

また、良いお店があったら
ブログでも紹介してくださいね。
by masa (2005-07-27 02:12) 

ちゅうごくじゃ、ふつうなんでしょうか

かつてはギインタチが、束になってねぇ。


後でたっぷりと、まぁ、何て言うんでしょう、blogでも有名になって栄るのが香川県高城宗之都会県議会議員。噂では、家族には法律と正義の味方もいるようで、多いにしゃぶられてるんじゃないかという、もっぱらのうわさ。

四国タイムズより。
by ちゅうごくじゃ、ふつうなんでしょうか (2013-08-15 19:57) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 3

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。