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清涼飲料水は会社支給?

 今週の上海はややうす曇りの天気ですが、先週までの上海は連日35度以上の猛暑が続いていました。Tobermoryは暑さに弱いネコなので、ちょっと夏バテ気味です。

 ところで上海のメディアに流れる最高気温にはちょっとした秘密があるという噂を聞きました。それは「たとえ何度であろうとも、発表される最高気温は必ず38度以下」というものです。

 「なんじゃ、そりゃ?」と思われる方に、本当かどうかは知りませんが、いかにも中国らしい理由がくっついています。
 それが「気温が38度を超えると、企業は労働時間を短縮するなど予防的措置を取らなければならないので」だそうです。
 つまり経済的な損失を出さないために、たとえ最高気温が40度あっても発表する最高気温は38度に抑えている、というのです。

 この話の信憑性を高めているのが上海市労働社会保障局以下各局/委員会などから共同で出されている通知です。今年は7月5日付で出されていました。
 その名も「この高温期間において温度を下げて防暑措置を取り、安全な生産業務を行うための通知」です。内容はまあいろいろ書いてありますが、要約すると以下のようになります。
 「各企業のリーダーは最前線の職場を見てきなさい」
 「職場の風通しなどをよくして従業員に清涼飲料水を配りなさい」
 「気温が35度以上になったら、屋外で働く人たちは労働時間を短縮しなさい」
 「気温が38度以上になったら、労働時間を短縮しなさい」
 ま、エアコンがあったりする職場は関係ありませんが、それだけエアコンなんかない職場がまだまだ相当数あるということです。

 「で、実際のところはどうなの?」と尋ねられれば、「企業によって、それぞれ」と答えるしかありません。

 日本の職場であれば普通エアコンがあったり、屋外で働く人たちにだって休憩所があって、そこには冷たい飲み物が飲める自動販売機とかそういうものがありますが、長いこと中国にはありませんでした。そういう職場環境を持っている会社は増えたとはいえまだ十分ではないということです。

 上海に限って言えば、多くの会社にも温水、冷水が出る給水器やエアコンが普及しているように見えますが、この通知が上海市当局から出されたものだということを考えると、まだまだエアコンなどがない会社がたくさんあるということなのでしょう。

 実際、エアコンが効いている会社でも、昼過ぎ一番暑い時間帯にアイスクリームや冷やしたスイカを配っているところがあります。
 日本の職場であれば「誰かが気を利かせて買ってきてくれたのだな」と思いますが、中国では「エアコンがなかった頃の名残だな」とノスタルジックに感じるものなのでしょうか。


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中国駐在員の苦悩【賄賂編】

 賄賂(ワイロ)とキックバックは中国人の商取引に欠かせないものです。

 日本の会社でコレをやったら、良くて左遷、悪ければ懲戒免職までありえます。いずれにしても二度と浮上できないレッテルを貼られることでしょう。
 ところが中国ではこれが普通です。もっとも南米だって欧州だって日本の一部だって同じらしいと聞きますから、世界標準はこれもまた中国にあるのかもしれません。

 一般に中国の購買担当者というのはそういう利益供与部分を社会的に認められているフシもあります。これまた会社の方でも、あらかじめ業者から受け取れるだろう金額を担当者の給与から差っ引いておくことがあるとも聞きますから、もうめちゃくちゃです。
 日本人が目を光らせている日系企業ではまずそういうことはありませんが、ちゃんと目を光らせていないとすぐにそういうことを始めますので注意が必要です。

 過去にこんな事がありました。

 ある取引先の新任A部長(日本人)から「御社の代理店からきた見積書を見て欲しい」という電話を受けました。くだんの代理店は私の会社のローカル二次代理店です。代表も職員も100%中国人ですが、長年取引があります。さすがに中国の会社らしいところがありますが、あまりひどいことはしないと知っている販売代理店です。
 私はいくつかの可能性について考え、A部長に「外か、私の事務所でお会いしましょう」と申し上げました。

 さっそく約束の喫茶店にA部長がお見えになりました。A部長は私と会うなりカバンから一枚の見積書のコピーを取り出して言いました。
 「この見積書は先日届いたものですが、この製品の価格の正当性についてお尋ねしたい。御社の製品はこんなにも高いものなのでしょうか?」
 私はその見積書に目を通しました。

 確かにくだんの代理店から最近正規に発行されたものであることに間違いはなさそうです。事務所を出る時、その代理店の見積書は印影も含めて頭に入れて来ていましたが、おかしなところは見当たりません。見積書に記載された番号も通常通りのものですし、そこに書かれた取引条件にも普段と違う特別な条項がある訳でもありません。
 異常な点はただひとつ。A部長のおっしゃる通り、製品単価が高いのです。

 私は危惧していたことが起きている可能性が高くなったと思いましたが、その場では決めつけられません。「確認して連絡します」と言い残し、いただいた見積書のコピーを持ち帰って、代理店の総経理に電話を入れました。

 「ある取引先の購買担当者について尋ねたい。明日、責任者と販売担当者を私のところに寄越してくれ。」
 翌日彼らからヒアリングした結果、案の定、私が想像していた通りのことが起こっていました。

 A部長の部下である中国人購買担当者が、ローカル代理店の販売担当者に圧力をかけていたのです。販売担当者は最初に真っ当な見積書を提出していましたが、その後購買担当者に呼びつけられて、彼の言いなりの価格を書いた見積書を作成し、キックバックを約束させられていました。その額は取引総額の約20%、金額にして約300万円でした。
 中国人同士なら問題にもならない普通の取引かもしれませんが、今回は先方の日本人幹部が直談判して来た経緯があります。私は彼らに事情を説明しました。

 ローカル代理店の責任者は「ウチからこの情報が漏れたことで、取引先の購買担当者がクビにでもなれば、この業界では今後商売ができなくなる」と私に泣きつきました。
 私は「事情は理解している。悪いようにはしないつもりだが、今は何も約束はできないよ」と言って彼らを帰し、A部長と再び会い、詫びて事の次第を話しました。

 私の説明を聞いてA部長は絶句していましたが、やがて「あなたのお話を伺って、購買担当者について思い当たることが多くある。中国の商取引のことは聞いてはいたが、まさか自分の会社の人間が元凶とは、お恥ずかしい限りだ。」
 そう言って、翌週には別件の証拠を突きつけてその購買担当者を解雇しました。別件を使ったのは、A部長が私の代理店をかばってくれたのでしょう。
 さらに自ら再見積もり依頼をしていただき、今度は正当な価格で購入していただきました。

 その後、その代理店の幹部(中国人)と酒を飲んでいる時にその話が出ました。「A部長の件はうまくいって良かった」と私が言うと、代理店の幹部は、あなたはまだ何も分かっていないねという顔をして、「いいえ、解雇されたのは下っ端です。あのキックバックの指示をした張本人は、まだあの会社にいますよ」と言いました。

 ちょっと考えて、やがてその張本人というのがA部長の会社の日本人総経理(社長)自身であることに気づき、今度は私が絶句しました。


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中国の会議

 あまりしないと思われがちですが、中国人もやっぱり会議くらいします。しかし慣れない日本人が中国人の会議に出席すると、いろいろ不思議な光景が目に入ってきます。ちょっと紹介しましょう。

 まず会議がある日は、掃除のおばさんがテーブルの上をきれいにして・・・フルーツやお菓子を並べます(笑)。
 のっけからなんだかよく分かりませんが、バナナや林檎、スイカやみかんといった季節の果物がいつも並んでいます。そのほかには殻付きのピーナッツやピスタチオ、ひまわりの種などのナッツ類がどっさり置かれています。テーブルの上には当然のように灰皿が並べられ、お湯がたっぷり入ったポットも2本ほど置いてあります。

 さて会議開始時間になりました。席についているのは日本人だけです(笑)。みんなどこに行っているのでしょう?仕方なくお茶を飲み、フルーツに手を伸ばし、バナナなんかをむしゃむしゃやっていると定刻5分過ぎくらいからみんながわらわらとやってきます。
 手には小さな手帳と飲みかけの湯飲みと吸いかけのタバコ。資料なんか誰も持っていませんが、メモ用紙すら持っていないバカもいるので、まあ、そのくらいはオッケーです。

 席に着くなりわいわいがやがやと談笑が始まります。日本のようにこれからの議題についてどう発言してどう会議をリードしようか、などと腕を組んで思いをめぐらすような輩はここにはいません。
 なにも考えずに目の前にバナナがあればその皮を剥き、おいしければ「おお、このバナナはうまいな」と発言します。

 定刻を10分も過ぎた頃、ようやく総経理がやってきてみんなおしゃべりをやめました。しかし静かになったわけではありません。どこかの誰かの口の中でバナナが咀嚼される音が聞こえます。
 総経理が厳かに会議を始める旨を宣言しますが、さっそく大あくびをしている奴が目に付きます。しかも「あーあ」とか声を出して。

 今日は定例の月度報告です。部門別に先月の活動内容と前回与えられた課題の進捗状況について報告し、ここで話し合うべき問題点と今月以降の見通しについて述べてもらいます。

 まずは総務部長からです。
 「会社の絶え間ない発展と・・・」報告が始まると同時にタバコを吸う人間が互いにタバコを投げ合い、あちこちで紫煙が立ち昇ります。吸わない人のところには乾燥梅かなんかの瓶が回されていて、おばさんたちが口の中でもぐもぐやっています。
 総務部長の報告が空しく響きますが、要約するとISO9001の書類を整えたこと以外は何もやっていないようです。ちなみに私のメモによれば、彼の仕事は先月も先々月もISOだと報告されています。ふーん、ISOってそんなにたいへんなんだ。

 次に技術部長、生産部長、開発部長、品質管理部長の順に報告が続きますが、みんな同じことを言うので、誰が何の仕事をやったんだかよく分かりません。
 「この仕事は誰がやったの?」と訊くと、褒めてもらいたいのか「オレがやった」「私が調べた」と口々に言いますが、同じことを問題が起きてから訊くと、誰もしていないことになるから不思議です。
 今回ひとつだけ分かったことは、先月の社員旅行のビデオをDVDに落として配布したのは開発部長だということです。「DVDにすることによって、永遠の記念になる・・・」とか通訳がそのまんま訳していますが、そういうことはここで報告しなくてよろしい。

 続いて営業部長が営業報告をしますが、彼女の報告は必ず「売れないときは会社のせい、売れたときは私のおかげ」となります。今回は「私のおかげ」だそうで、まあ、よかった。

 今日は財務部長が欠席ですが、そういうときに限って普段の月より管理費用が多かったりします。どうせまたおかしな操作をしているんだろうけど、あとで絞ってやろうと心に誓い、「管理費用」とノートに書いてぐりぐりに丸で囲んでおきました。

 それから副総経理が自身担当している状況についての報告と総括を行います。彼の総括は常にダメ半分、良し半分ですが、本当はダメダメダメダメダメダメダメダメと言いたい気持ちをぐっとこらえているのです。良しと褒めてやる部分を探すのは、会議準備時間の半分を超える困難な作業です。
 そんな苦労をしてまで無理に褒めてやっているのに、当の本人がどこ吹く風で、口の中をハムスターさながらにひまわりの種で膨らませながら、隣の奴に話しかけているのを見ると、物を投げたくなる衝動にかられます。

 最後に総経理のお説教タイムです。
 中国人らしく大きな声で会社の将来について危機感をあおりますが、幹部の半分はかみ殺していないあくびをしており、残りの半分はリスのようにピーナッツをぽりぽりやっています。タバコを吸う人間はまたタバコを配りあっており、その距離が遠いため上半身を乗り出してタバコを投げ合い、目の前を何種類ものタバコが同時に飛び交うさまは壮観です。
 話を聞いていると、特に今回は生産部長ががんばらなくてはならないようですが、当人はみんなの湯飲みにお湯を足して歩いています。「謝謝」、「不用謝」。ちょっと待ておい。

 総経理の話がだいぶシリアスになってきました。話しているうちにマジでやばいと思うようになってきたのでしょう。声をからして「みんなの努力が必要なんだ!」と格好よく言い放ったいいところで、総経理の携帯がマヌケた音楽を鳴らします。
 いいところで中断されたのがよほどアタマにきたのでしょう、「ウェェェェイ?」いつもより長く伸ばして電話に出ます。ところが電話を掛けてきた相手が大物だったようで、「ニイハオ」と「シェイシェイ」を連発しまくりです。あきれ返った部下どもの目の前で、しまいには身を捩じらして「エヘヘヘ」と愛想笑いです。
 やがて電話が切れると真面目な顔に戻りましたが、もはや何をしゃべっていたのか覚えている者は一人もいません。

 そんなこんなで総経理が言いたいことを全部言い終わると、月に一度のお説教タイム、じゃなかった会議は終わりです。みんな晴れやかな顔をしています。まるで困難な仕事を全員の力でやりきったかのように、椅子から立ち上がり、顔を見合わせて互いの肩をたたきます。

 さわやかな笑顔をとともにみんなが去っていくと、テーブルの上にはピーナッツの殻やバナナの皮が散乱しており、灰皿の上はタバコの吸殻でいっぱいです。
 私はどうしてこの会社が利益を出しているのかという難しい問題とともに、ひとり取り残されます。

 あ、今電気が消えました。


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暑い中国と毛の話

 みなさんごぶさたしています。アテンド大王のTobermoryです。あー疲れた。もう、来んな、オマエら。

 ところで、毎日暑い上海です。
 毎年この頃になると暑さに負けた庶民のおじさん、おばさんたちが羞恥心と引き換えに凉を求めて薄着になります。
 具体的に言うとおじさんはパンツ一丁、おばさんはパジャマで外出します。例えば朝食の油条を買いに行くとか、夕方にちょっと近所のスーパーまで日用品を買いに行くとか、そういうときです。
 夜は夜で家の中は暑いのでしょう、道端に段ボールなどを敷いて一家揃って眠りこけています。おばあさんから赤ん坊まで。その横を酔っぱらった数人の日本人サラリーマンがネクタイを締めて上着を抱えて歩く図はなかなかシュールです。

 昼間、最高気温が38度を超えるような休日の下町、まず男どもは元気よく上半身裸です。シャツの裾をまくり上げてへそ出しというのもありますが、ステテコ姿のおじさんもよくうろうろしています。
 昨年はどこかのNGOが街中で無料Tシャツを配っていました。胸には「服を来て街を歩こう」とかなんとか。アレには大笑いさせていただきました。

 ところで、別に珍しくもない中国の男どもの裸を見ていると、ひとつ気がつくことがあります。
 それは、みんな、揃いも揃って「毛がないこと」です。

 日本人の男性で、胸毛が全くないというのはどちらかというと珍しい方でしょう。みんな多かれ少なかれ胸毛くらいあります。なかにはおへその辺りまでぼーぼーで、「ヒデキ感激」状態という方も珍しくはありません。
 また腕にも毛があるのはあたりまえです。私はそんなに濃い方ではないと思っているのですが、夏場に腕を出している状態で中国人の隣でお茶など飲んでいると、よく腕にうっすらと生えた毛に視線が集中していることに気がつきます。会議中、会社の技術部長(女、45歳)に毛を引っ張られたこともありました。

 そこで、中国人です。
 本当に、みんなつるつるなんです。もちろん脇毛とかそういう毛は生えていると思いますが、道行くおじさんがたとえ上半身裸だからといって、「ちょっと脇毛生えているか見せてくれよ」と言う勇気も気力も趣味もさらさらありませんので、確認したことはありません。
 あ、でも中国人の女性のぞんざいな脇毛処理の結果を地下鉄などで見たことがありますので、たぶん男性も生えていると思います。

 ちなみに日本人の彼氏のいる、ある中国人女性の胸毛に関するコメントです。
 「最初はびっくりした。気持ち悪かった。そのうち慣れた。今はないと寂しい。」
 なんだかわかりません。


アーイー(阿姨)さん

 『アーイー』とは漢字で書くと『阿姨』となります。一般的に「おばさん」を指しますが、お手伝いさんや公司(会社)の清掃係などもこう呼ばれます。

 日本人駐在員家庭には50%以上の確率でいるのではないでしょうか。欧米系駐在員家庭なら100%近いでしょう。彼らはアーイーを雇うことで「自分の時間を買い」ますから。我が家では以前週2回来てもらっていましたが、ウチのかみさんの「やっぱりもったいないわ」のひと言で今はいません。

 ただ夏休みになると私を残して家族は一ヶ月ほど帰国しますので、その間以前来ていたアーイーさんにまた働いてもらうことになりそうです。ちなみに彼女の給料は午前8時〜11時の3時間で1回50元(700円)ですが、かなりの高給取りの部類です。なにしろ香港人や台湾人の太太はこの給料を聞いたら口を揃えて「高いー!」と言いますから。

 もちろんもっと安い人もいるにはいますが、私の場合、お手伝いさんとは言え家の中に全く知らない他人が入ることに抵抗があったことと、中には手癖が悪くてずっと見張ってなきゃいけない人もいると言われたりしたので、値段は高くても、そういう必要がない身許のしっかりした人を紹介してもらったという経緯があります。
 彼女は40歳代の上海人で某有名日系マンションで清掃の仕事をしているベテランです。当然日本人に慣れていて、日本人の求める清潔レベルを熟知しており、買い物やクリーニング、後片付けも安心して任せられます。

 また彼女と娘はいいコンビで、よくふたりで何やら楽しげに話しています。幼い頃の娘は両親のどちらもいないと泣きわめいたものでしたが、アーイーとなら不思議と留守番ができました。今でもアーイーは、彼女の職場にあるプールに通う娘を見つけては同僚たちを捕まえて、「このコが私の働いていた家のコよー、かわいいでしょう!」と自慢げに言ってくれますので、家族にとっては良い選択だったと思っています。

 さて彼女たちを雇うことは別に一部特権階級だけの贅沢ではありません。ごく普通の家庭でも雇います。結構いい歳こいたおばあちゃんが時間が余っているので自分の小遣い稼ぎにすることもあります。
 中国人の一般家庭で雇うレベルだと時給5元(70円)くらいです。自分が働きに出ている間に洗濯をしておいてとか掃除をしておいてとかワリと気軽に使っています。

 さすがに中心部では少なくなりましたが、上海人のローカルアパートや長屋は非常に濃密な付き合いが残っており、隣近所とは大きな家族のようになっていることが多いのです。夕涼みなどでみんなが家の前に椅子やらテーブルやらを出しては、だべっていますので、普段見かけない怪しいヤツが来てきょろきょろしていたら、たちまち警戒警報発令です。
 そういう狭くて濃いコミュニティの中ですから、例えばどこそこのおばちゃんが今仕事を探しているとか、小遣い稼ぎをしたいとかという情報は長屋全体にすぐさま伝わり、はたまたどこそこのおばちゃんが働いている間のアーイーを探しているという情報とすぐさまマッチングされます。
 情報が伝わる間に値段についてもおおよその金額が周囲の監視の中行われますから、お互いあまりにも相場からかけ離れた要求はしにくいという便利な一種の評議員制度が確立されています。

 また定期的でなくても彼女たちは来てくれます。例えば「土曜日の夜はパーティをするわ、腕によりをかけて料理をたくさん作るつもりだけど、その後の後片付けのことを考えると憂鬱なの」という時こそ、アーイーの出番です。あなたがひと言、「日曜日の午前中、洗い物がたくさん出るから来てくれない?」と頼めば、時給10元でぱっぱっと片付いてしまいます。あなたは寝っ転がってTVでも見ていればいいのです。

 ほかにも彼氏やダンナさんの会社の人たちが来るのに「なんだ、この部屋の汚さは?!」というときも便利です。電話一本でアーイーを呼んで、「後はよろしく〜。」と買い物に出かけましょう。帰って来る頃にはもうすっかり片付いているはずです。

 もしお目当てのアーイーが希望の日時にいなかったら、ローカルコミュニティ以外にもアーイーネットワークで、彼女は別の人を紹介してくれるかもしれません。なんにしても中国では、欲しい時に欲しい人材がパッと出てくるかどうかのコネクションは人生を左右する重要な財産です。


10,000pv到了!謝謝大家!【Musical Baton】

 ついこの前5,000pv謝謝とか言っていたら、あっと言う間に10,000pvに届いてしまいました。みなさんいつもどうもありがとうございます。

 じゃ、また中国以外のことを。

 先日TheBoxcarさんのblogを読んでいたら、『Musical Baton』なる言葉が出てきました。「最近よく聞くけどなんだろう?」そう思いながら読み進めていって、「なるほど、楽しそうだなー」と思いました。どうやらTheBoxcarさんもそう感じられたようです。

Musical Baton/レトロ風味
なんだか楽しそうだったので、ナシウタさまに無理を言ってミュージカル バトンを頂きました。
まず、Musical Baton については以下のリンク先を参照とのことです。
MUSICAL BATON
では回答にうつります。


 『Musical Baton』にもいろいろあるようですが、私はTheBoxcarさんからバトンをいただきましたので、彼が回答した以下の五つの質問に答えたいと思います。
 1.コンピュータに入ってる音楽ファイルの容量
 2.今聞いている曲
 3.最後に買ったCD
 4.よく聞く、または特別な思い入れのある5曲
 5.バトンを渡す5人


 1.コンピュータに入ってる音楽ファイルの容量
 4.30GB / 1023曲


 2.今聞いている曲
 Get Yourself Together / The Jam

 3.最後に買ったCD

教育

教育

  • アーティスト: 東京事変, 椎名林檎
  • 出版社/メーカー: 東芝EMI
  • 発売日: 2004/11/25
  • メディア: CD
  • ※ワリと好きな椎名林檎の中でも特に私の好きな『群青日和』が入っています。この人の曲はなぜか強く自分が日本人であることを感じさせます。
 4.よく聞く、または特別な思い入れのある5曲
 I. Can't Take My Eyes Off You / Boys Town Gang
君の瞳に恋してる~ディスク・チャージ~

君の瞳に恋してる~ディスク・チャージ~

  • アーティスト: ボーイズ・タウン・ギャング
  • 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
  • 発売日: 2004/09/22
  • メディア: CD
  • ※原曲はFrankie Valliです。今でも多くの人によって再カバーされています。私はこの曲のコレクターですが、今日の気分で聴きたいアーティストはLauryn Hillと張恵妹です。
 II. いとこ同士 / ムーンライダーズ
ムーンライダーズ / 1976-1981ムーンライダーズ・コンプリート・コレクション

ムーンライダーズ / 1976-1981コンプリート・コレクション

  • アーティスト: ムーンライダーズ
  • 出版社/メーカー: 日本クラウン
  • 発売日: 1996/12/18
  • メディア: CD
  • ※音楽を知り尽くした音楽家集団ムーンライダーズの名曲です。「すれ違う肩先で君は言った・・・いつまでもいとこ同士」。恋こそありませんでしたが、私にも思い出の従姉がいました。
 III. Air(G線上のアリア)/Johann Sebastian Bach(大バッハ)
美しく青きドナウ~管弦楽名曲集

美しく青きドナウ~管弦楽名曲集

  • アーティスト: NBC交響楽団, ワルトトイフェル, トスカニーニ(アルトゥーロ), L.モーツァルト, J.シュトラウス, スッペ, ポンキエルリ
  • 出版社/メーカー: BMGファンハウス
  • 発売日: 1990/08/21
  • メディア: CD
  • ※一番好きなクラシックの曲は『第九』ですが、トスカニーニのアリアだけは特別です。ワルターやフルトヴェングラーなどドイツ系指揮者に比較して重厚さに欠けると言われますが、私にはエネルギーが弾け飛ぶようなトスカニーニがピッタリです。彼に対して"正しい"演奏法を語った男を「そんなことはスコア(楽譜)に書いてある。」と一蹴したトスカニーニに憧れています。
 IV. Sugartime / 佐野元春
SOMEDAY

SOMEDAY

  • アーティスト: 佐野元春
  • 出版社/メーカー: ERJ
  • 発売日: 1992/08/29
  • メディア: CD
  • ※高校生の頃、毎朝目覚めと同時に聴いていた曲です。この曲を聴くたびに教室の窓から見えた景色、学校のグラウンド、溜まり場になっていた喫茶店などが記憶の中から甦ります。
 V. Give Me Up / Michael Fortunati
クール~12インチ・ダンス・ヴァージョン~ヒッツ・オブ80´S

クール~12インチ・ダンス・ヴァージョン~ヒッツ・オブ80´S

  • アーティスト: オムニバス, サマンサ・フォックス, ミケール・ブラウン, マイケル・フォーチュナティ, ライム, ポール・レカキス, ドナ・サマー, ジョルジオ・モロダー
  • 出版社/メーカー: エイベックス・マーケティング・コミュニケーションズ
  • 発売日: 1998/10/07
  • メディア: CD
  • ※高校を卒業した夏に流行り始め、その後大ブレイクしました。日本ではベイブがカバーしてTVドラマの主題歌にもなりました。80年代ユーロビートの代表曲です。大学に行く気もなく、毎日遊んでばかりいて、夕方、なじみのディスコの開店前のD.J.ブースにこもってこの曲のミキシングばかりしていました。
 
 5.バトンを渡す5人
 えっと。どなたか私の『Musical Baton』を受け取ってくださる方はいらっしゃいませんか?

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外灘観光隧道

 上海の観光マップを拡げてみましょう。
 だいたいの観光マップには浦東(陸家嘴)と浦西(外灘)を結ぶ『外灘観光隧道』というものが載っています。黄浦江の両岸にある公園を結んだだけのものですが、ガイドブックには「上海観光の散歩に欠かせない乗り物」「光に彩られた幻想の世界」とか書いてあります。どんなものなんでしょう?

 実は私は2年前にこれに乗ったことがあるのですが、その時は降りた直後に記憶喪失になりました。そして日曜日、記憶を失っていたことをいいことに再びこれに乗ってしまいました。今は反省しています。

 まず最初に分かりにくい入り口を探しましょう。特に浦東側は分かりにくいところにあります。看板を頼りにうろうろするとすり鉢状に凹んだ小さな広場があり、その底に入り口があります。
 ちょうど両親と子供ふたりという外人さん一家が出てくるところでしたが、ベビーカーに乗った赤ん坊を含む全員が微妙な表情を浮かべています。一抹の不安が頭をよぎりますが無視して中に入りましょう。

 エスカレーターを降りるとそこは別世界です。俗世界では切符売り場とも言います。
 別世界はガラス張りになっており、ギンギラギンの照明でまぶしいくらいに光があふれています。そんな光を背におばさんがひとりこちらを向いていますが、拝んではいけません。
 確かにあまりの光量にもしかするとこのおばさんは仏法世界の守護者じゃねーのかとも思うかもしれませんが、「多少銭」と訊くと、ちゃんと「イッパリンンー」とか上海語をしゃべります。
 
 ところで、おとな3人とこども1人の片道切符を求めると、105元!と言われました。片道4人で105元!ですか?!

 浦東と浦西を結ぶ移動手段としては渡し船なら5角です(1元=10角)。もうすぐ値上げされると聞いた地下鉄の初乗り運賃は2元で、もちろん黄浦江は越えられます。いったいどんなサービスが展開されるのでしょうか?足マッサージ付きか?!

 とにかく切符を買って無愛想な切符モギのおばさんの前を通って、薄暗い中を階段で降りていきます。すぐ横にはエスカレーターがあるのですが、それは上り専用で、しかも誰も乗っていませんでした。もちろん前後にも私たち以外は誰もいないので、なんだかドキドキします。

 下まで降りるとこれまたギラギラの世界が拡がっていました。安っぽい未来映画のアトラクションのようです。そこは次々とやってくるゴンドラが180度ターンするところで、無愛想な顔をしたおねえさんがうんともすんとも言わず乗り場に突っ立っています。
 エスカレーターからゴンドラまでの通路にはガチャポンが2台置いてありましたが、これは明らかに待ち時間に飽きた子どもたちから金を巻き上げるもくろみで置いたものです。失敗していますよ、市長。

 私たちはゴンドラに乗り込みました。見た目も中もスキー場の大きめのリフトと言った風情です。もちろん前のゴンドラは空のまま出発し、私たちのゴンドラは貸し切り状態で、後ろのゴンドラには誰も乗り込みませんでした。ゴンドラの前には暗いトンネルが奥へと伸びています。ゴンドラの中はこんな感じ。

 ゴンドラの扉が閉まったら出発です。
 出発すると暗かったトンネルの中の電飾がいっせいに点灯します。色とりどり点滅するものもあり、かなりギラギラしています。
 行く手の正面はなにやら水中を魚が泳いでいるようです。「おお、もしかして水中を通るのか」と一瞬思いましたが、そんなわけありません。実はただのはったり用スクリーンで、近くまで寄るとスクリーンが上がり、向こうから無人の対向車が申し訳なさそうに姿を現しました。

 はったりスクリーンの次はな??らと揺れています。「昆布かな?」と思いましたが小汚い風船人形でした。ラクガキのようなピエロがバンザイしながら笑っています。「オレが小日本だからこういう嫌がらせをするのか?」とちょっとムッとしました。

 さらに進むと今度はマグマ地帯だそうです。なんでマグマだとわかったのかというと、そう言っていたからです。でなければわかるわけないでしょう!・・・すみません、つまらないことでキレてしまいました。

 トンネルの内側全体が真っ赤なライトで彩られ、それがピカピカと点滅します。もちろん目はチカチカします。設計者の狙いはポケモンのように子供を卒倒させることですが、そもそも中国人の子供はこんなものに乗りません。
 さらにダメ押し気味に「ここはマグマの世界だー」というとんちんかんなアナウンスが聞こえますが、これは設計者の狙い通り、ゴンドラ内は失笑に包まれます。

 やがてゴンドラは終点に着きます。ゴンドラに乗り込んでからここまで10分間もかからなかったでしょう。
 これまた無愛想な顔をしたお姉さんが私たちを下ろしてくれました。もちろんこちらから乗り込むサイドにも、もうひとりお姉さんが立っていますが、無愛想に向こうを向いたまま突っ立っているだけです。

 降りた直後には各人開いた口がふさがらなくなっているので、しばらくの間みんな無言になります。
 これから乗ろうとするバカどもが向こうから賑やかにやって来ますが、所詮あと10分間の命です。向こうに着く頃にはさっきすれ違った外人一家のようになっているでしょう。

 このようにお役人がそのノーセンスを十分に発揮し、数え切れないほどの電飾を用い、貴重な電力を湯水の如く使い、無愛想な女専門の失業対策をした結果、他に類を見ない楽しいアトラクションができ上がりました。

 日本なら発案者は雲隠れし、口を出した政治家は黙り、プロジェクト責任者のクビが替わって、また税金がちょっと高くなるだけですが、ここ中国では誰も困りません。さすが共産主義。


葱油拌面(油そば)

 『葱油拌面』はカタカナで書けば「ツォンヨウバンミェン」と発音します。

 日本でもすっかり定着した感のある『油そば』ですね。上海では昔からある珍しくもないフツーの庶民の食い物です。ちなみに私がこれを注文すると同行している上海人は必ず笑います。なんでだよ?

 屋台なんかで作り方を見ていると、とても簡単。
 まず万能ネギをかなり多めの長め(5~8cm)に切って、これをたっぷりの油で軽く焦げるまで揚げ炒めて、ネギの香りを十分に油に移してから、火を止めてこのネギ香油が冷めるのを待ちます。
 ここで屋台は麺を茹でるのにも1個しかない中華鍋を使いますから、このネギ香油は別の容器にとって温度を下げます。

 油の温度が下がるのを待つ間に、麺を茹でます。
 茹で上げた麺はしっかり湯切りします。しっかり、ちゃんと湯切りするのがおいしく作るコツですが、そこは麺類ですから、もたもたすることだけは御法度です。
 おまけに中国の麺はなんだかぼそぼそしていて味もコシもないので、試したことはありませんが、日本の麺で作った方がおいしいかもしれません。

 麺を茹でているうちにネギ香油の温度が下がりますから、これに醤油と味の素を入れて味付けします。これがつけダレと言うか、かけダレになるわけです。
 あとは深皿に盛った麺の上から、この調味油をかけて食べるだけです。中国の麺はこの調味油をかなり吸いますので、慣れないうちは調味油を多めに作りましょう。
 値段は3元(約40円)くらいから。

 庶民の食い物葱油拌面もちょっとしたお店の中で食べるような高級品(と言ってもたかが知れてる)になると、調味油の中に小さな干しエビや鷹の爪が入り、ほんの少し黒酢やスープを加えて味に奥行きを出しているところがあります。それでも値段は10~15元程度です。

 しかしそもそも麺を食わせる料理のくせにちっとも麺がうまいと思ったことはありません。
 しかもとっとと食べないと(1)冷めるわ、(2)麺は乾燥してきてくっつくわ、(3)底の方は油がしみ込んでくるわ、(4)もともと油がしつこいので飽きがくるわとそういう食べ物です。

 でも注文してしまうんだな、なぜか。
写真は撮った時にー。


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集団帰属意識

 個人は望むと望まないに関わらずなんらかのカテゴリに入れられます。

 例えば私なら「日本人」「男性」「会社員」・・・となります。
 何らかのカテゴリに入る人間は何らかの似たようなところがあるかもしれませんが、全く一致するというわけではありません。同じ利害関係にあるかも知れませんが、その場合でも考え方や行動が全く一致するというのはやはり稀です。

 しかしカテゴリが集団となって、集団がなんらかの意思表示をしたり行動をとることがあります。外交もそのひとつです。現在、日本と中国も様々な問題を抱えていますが、これらは集団同士の問題で、決して個人同士の問題ではありません。

 集団と個人は異なるものですが、集団を形成するのが個人である以上、個人は何らかの関わりや繋がりを自分の属する集団に対して持っています。にも関わらず集団は個人の意見と異なる意見を持つことがあります。

 国家を考えたとき、日本は民主主義国家ですから個人の意見を選挙という手段を通じて国家の意見に反映させることができますが、中国では国家の意見に個人の意見を反映させる手段はあまりありません。おやおや、日本人ならやはり選挙には行った方がよさそうですよ。
 ところでこれは極めて真っ当な論理ですが、それ以外にも中国の国家としての意見が中国人個人の意見を如実に反映しているものではないなと感じる理由があります。

 それが日本人と中国人の集団帰属意識の差です。

 集団帰属意識がどのように育まれるかは知りませんが、例えば学校でのそれを考えた場合、同じ県より同じ市、同じ市より同じ学校、同じ学校より同じクラスと考えていけば、より小さく、経験や知識が共有できて、一緒にいる時間が長く、相互理解が進んだ集団ほど帰属意識が高くなるように思えます。

 みんな似たような知識や経験を共有しているせいか、日本人は比較的集団帰属意識が高い国民です。
 国に対してはいざ知らず、例えばサラリーマンの会社に対する忠誠心はたいしたものです。会社の立てた方針に私の考えは違うと逆らう人間はあまりいないでしょう。もし逆らったりすればそれを許さない日本社会では周囲から白い目で見られること請け合いです。

 それに対して中国人ほど集団帰属意識が薄い国民はいないでしょう。
 ほとんどの個人の意見は集団の意見と異なります。国家どころかあらゆる組織、会社でも地域でも共産党でもどこでも一致していることはあまりないと感じます。会社に対する忠誠心もあまりなく、またそれを咎める風土もありません。ほかにも我関せずという人も多くいて、そのまとまりのなさはまさに孫文が嘆いた「砂のような」国民です。

 そんな中国人たちはおそらく日本人を狭い地域の小さな集団として見ているような気がします。中国は広大な国だから意見の統一なんてできっこない。でも日本は小さな国で民族もまあひとつみたいなものだから意見の統一ができるんだろうね、という論です。

 中国人と付き合っていると、いかに彼らが集団をアテにせず、己自身だけを頼りに、世の中を渡っているかということを思い知らされます。
 我が身を振り返れば、いかに『会社』など帰属する集団組織の考えはどうなっているのかを気にする自分がいるのです。


日本忘れがたく

 またひとり日本人が上海に舞い戻ってきました。

 彼は今年45歳で、日本人、中国人を問わずあまり名前を知ることのない中小企業に勤めています。彼と中国との関わりは30台も半ば過ぎてから初めて経験した海外勤務、上海駐在でした。

 最初はもの珍しさが先行して面白くて仕方がなかった彼でしたが、そんな彼に上海はだんだん冷たい本性を現してきました。

 中国語はまったくできないにも関わらず、会社の中ではろくに日本語ができる人材がいません。何をするにも、たったひとりの通訳兼アシスタントを通じなければなりません。これが顔がかわいいだけの性悪女で、きちんと通訳されているのか不安で仕方ありません。
 また彼は日本では所詮課長職ですから、当然家から会社までの通勤はバスと地下鉄です。もちろん本社がうるさいので接待費や交際費は使えません。カラオケ屋にはもう2ヶ月も行っていません。

 合弁会社から出る給料は人民元で、本社からの日本円給与は1/3にカットされました。そのくせ日本だったら会社持ちが当然の接待やら交際やらが増えてそのほとんどが自腹です。その上、海外駐在員なんて全社を見渡しても自分ひとりしかいないので、海外福利厚生なんて誰も分からず、故郷を懐かしむ妻や孫の顔を見たがる老いた両親のために自費帰国するので、生活はずいぶん厳しくなってきました。

 たまに彼が仕事で帰国したいなと思っても、上司の「経費削減」の一言でペンディングされます。年に2回くらい帰国できるでしょうか。駐在2年目で日本に滞在したのはわずか2週間前後でした。もちろん東方航空か中国国際航空利用でマイルなんてありません。1年もしないうちに中国人スチュワーデスの横柄な態度に慣れることができ、あれがサービスのつもりだったのかと理解することができました。もちろん日本滞在中は国内出張扱いになりますから、出張手当は一日3千円です。

 彼は当初3年の約束で上海に来ましたが、1年目が終わる頃、会社に言いました。
 「もう帰国させてくれ」
 後任がいないからダメとのことでしたが、彼は総務だけにまかせてられないと、自ら少ない日本滞在期間を活用して後任探しをしました。結局見つからなかったため、彼はさらに5年も上海駐在生活を送ることになりました。

 さて上海駐在生活も6年目が終わる頃、彼は後任を得てようやく日本に帰ることになりました。合弁会社初の上海駐在でしたが、日中経営主導権の奪い合いと売上凋落の影響を受けて、中国側投資元は誰も送別会に参加しません。数少ない従業員たちだけが「再見、再見」と言ってくれます。みんなもがんばったんだなと思うと、なんだか胸に熱いものが込み上げてきて「よーし、みんな!二次会行こうか!」と誘いましたが、誰も付いてきませんでした。

 帰国後、彼は地方にある工場に戻り、その後駐在していた彼の後任がノイローゼとなって帰国したため、ピンチヒッターとしてまた上海に戻ってきました。
 誰に会っても「高崎工場から来ました」と名乗ります。みんな口を揃えて「どこ、それ?」
 生産工程と品質管理のことを語らせればどこの誰にも負けません。しかしそんな日本の工場のことを話す彼のことを中国人はハナから煙たがります。
 おまけになんだか仕事がうまく行きません。日本ではなにか問題があったら、会議をして対策すればだいたいはうまくいっていたのに、中国じゃその報告すら上がってきません。日本で会議ばかりしていたおかげで中国人は問題を報告をしないということもすっかり忘れてしまっているようです。

 「もう少し会社に言いたかったんだけど・・・。」
 本社は近年の採用手控えからくる若手不足と厳しい競争に生き残るためのコスト削減であえいでおり、本社工場へ半製品を納入している彼の合弁会社にも厳しいコストダウンが命じられました。品質管理工程を削って、納入業者を換えれば現状より大幅なコストダウンができると主張する、最近入ってきた中国人資材担当者の説明を受けて彼は決断しました。
 「とりあえず、オマエはクビだ。」

 また彼にはもうひとつ、厳しいコストダウン要求を受けて決断をしたことがありました。それは家族を日本へ戻すことです。
 「とにかく固定費が下がらない。今すぐ削れるのは社宅になってる自宅の家賃くらいだ。」
 「かと言って、ローカルマンションで暮らすのは妻や子どもの友人たちの見る目もあるだろう。」
 「涙を飲んで別居するしかない。妻子も日本にいた方が幸せだ(と思う)。」

 ただひとつ、彼の苦労を分かってないものがありました。それは本社です。本社はプレッシャーをかけ続けます。
 「コストダウンはどうなっている。利益が出ていない。品質低下が甚だしい。」

 彼は急遽帰国し、役員会で言葉を尽くして努力していることを伝えましたが、結局本社の理解は得られず、管理報告書の項目が二倍に増え、権限は半分になりました。何をするにも本社にいる上司の承認が必要です。
 「同僚にもすっかり同情されてね。」

 上海に戻ってきた彼は黙って奥さんと子どもたちを日本に帰し、ひとりでより小さなアパートに移り、毎朝一番に出勤するようになりました。
 しかし彼が帰任した当時頼りにしていた中国人管理職は全員転職しており、当時苦労して作り上げたラインは見る影もありません。ほんの1年前まであれほどきちんと整理されていた工場が、内部にゴミと私物が散乱し、在庫と帳簿の数が合わず、勤務時間中にも関わらずあちこちで中国人ワーカーがタバコを吸い、新聞を拡げる姿を見て、
 「ゴミを拾っていたら、涙がでちゃった。」

 私も彼を知っているひとりでしたので、彼のアパートを訪問する機会を得ました。
 「これからどうするんですか?」
 「今までやってきたことを思い出し、一から出直すしかない。」

 彼の住居になっているアパートには奥さんが洗ってくれたのでなぜかもったいない気がすると言うスーツケースに入ったままの下着類。デスク兼食卓の上には散乱した資料と灰皿いっぱいの吸い殻の山がありました・・・。

 ・・・私は彼とはそれっきり会っていません。何かの折りに彼を知っている人と話をして、その消息を聞きました。
 「あの人は、なんとかやっているようだよ。」


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