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中国駐在員の苦悩【賄賂編】

 賄賂(ワイロ)とキックバックは中国人の商取引に欠かせないものです。

 日本の会社でコレをやったら、良くて左遷、悪ければ懲戒免職までありえます。いずれにしても二度と浮上できないレッテルを貼られることでしょう。
 ところが中国ではこれが普通です。もっとも南米だって欧州だって日本の一部だって同じらしいと聞きますから、世界標準はこれもまた中国にあるのかもしれません。

 一般に中国の購買担当者というのはそういう利益供与部分を社会的に認められているフシもあります。これまた会社の方でも、あらかじめ業者から受け取れるだろう金額を担当者の給与から差っ引いておくことがあるとも聞きますから、もうめちゃくちゃです。
 日本人が目を光らせている日系企業ではまずそういうことはありませんが、ちゃんと目を光らせていないとすぐにそういうことを始めますので注意が必要です。

 過去にこんな事がありました。

 ある取引先の新任A部長(日本人)から「御社の代理店からきた見積書を見て欲しい」という電話を受けました。くだんの代理店は私の会社のローカル二次代理店です。代表も職員も100%中国人ですが、長年取引があります。さすがに中国の会社らしいところがありますが、あまりひどいことはしないと知っている販売代理店です。
 私はいくつかの可能性について考え、A部長に「外か、私の事務所でお会いしましょう」と申し上げました。

 さっそく約束の喫茶店にA部長がお見えになりました。A部長は私と会うなりカバンから一枚の見積書のコピーを取り出して言いました。
 「この見積書は先日届いたものですが、この製品の価格の正当性についてお尋ねしたい。御社の製品はこんなにも高いものなのでしょうか?」
 私はその見積書に目を通しました。

 確かにくだんの代理店から最近正規に発行されたものであることに間違いはなさそうです。事務所を出る時、その代理店の見積書は印影も含めて頭に入れて来ていましたが、おかしなところは見当たりません。見積書に記載された番号も通常通りのものですし、そこに書かれた取引条件にも普段と違う特別な条項がある訳でもありません。
 異常な点はただひとつ。A部長のおっしゃる通り、製品単価が高いのです。

 私は危惧していたことが起きている可能性が高くなったと思いましたが、その場では決めつけられません。「確認して連絡します」と言い残し、いただいた見積書のコピーを持ち帰って、代理店の総経理に電話を入れました。

 「ある取引先の購買担当者について尋ねたい。明日、責任者と販売担当者を私のところに寄越してくれ。」
 翌日彼らからヒアリングした結果、案の定、私が想像していた通りのことが起こっていました。

 A部長の部下である中国人購買担当者が、ローカル代理店の販売担当者に圧力をかけていたのです。販売担当者は最初に真っ当な見積書を提出していましたが、その後購買担当者に呼びつけられて、彼の言いなりの価格を書いた見積書を作成し、キックバックを約束させられていました。その額は取引総額の約20%、金額にして約300万円でした。
 中国人同士なら問題にもならない普通の取引かもしれませんが、今回は先方の日本人幹部が直談判して来た経緯があります。私は彼らに事情を説明しました。

 ローカル代理店の責任者は「ウチからこの情報が漏れたことで、取引先の購買担当者がクビにでもなれば、この業界では今後商売ができなくなる」と私に泣きつきました。
 私は「事情は理解している。悪いようにはしないつもりだが、今は何も約束はできないよ」と言って彼らを帰し、A部長と再び会い、詫びて事の次第を話しました。

 私の説明を聞いてA部長は絶句していましたが、やがて「あなたのお話を伺って、購買担当者について思い当たることが多くある。中国の商取引のことは聞いてはいたが、まさか自分の会社の人間が元凶とは、お恥ずかしい限りだ。」
 そう言って、翌週には別件の証拠を突きつけてその購買担当者を解雇しました。別件を使ったのは、A部長が私の代理店をかばってくれたのでしょう。
 さらに自ら再見積もり依頼をしていただき、今度は正当な価格で購入していただきました。

 その後、その代理店の幹部(中国人)と酒を飲んでいる時にその話が出ました。「A部長の件はうまくいって良かった」と私が言うと、代理店の幹部は、あなたはまだ何も分かっていないねという顔をして、「いいえ、解雇されたのは下っ端です。あのキックバックの指示をした張本人は、まだあの会社にいますよ」と言いました。

 ちょっと考えて、やがてその張本人というのがA部長の会社の日本人総経理(社長)自身であることに気づき、今度は私が絶句しました。


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コメント 10

pochi

表には出てこない事情ってありますよねぇ。
by pochi (2005-07-13 01:39) 

rinda

ステージが違うので仕方ないのかなぁ。
ここにいると何が正しいのか、よく分かりません・・・。
やばいです、そろそろ染まってきている!?
by rinda (2005-07-13 13:42) 

Tobermory

>pochiさん、おっしゃる通り。
ホント、表面だけ見ていると分からないことってありますよね。このlogの真のテーマは、最後の私の絶句なんです。

>rindaさん、こんばんは。
どの部分をどう現地に合わせるかは個人の裁量ですよね。その結果、日本にいる日本人と多少なりともズレが生じてしまうのは仕方のないことなのかもしれません。ただあまり現地に合わせていくと・・・ヤバいかもしれませんよねー。
by Tobermory (2005-07-13 23:57) 

あおい

「へっ!?」と叫び、絶句です。
事実は小説より奇なりですね。
こんな「ホイ・コウ」(漢字変換できません・・・)は許せません。
悪質すぎます。
by あおい (2005-07-17 19:08) 

Tobermory

あおいさま、こんばんは。この話は実に複雑な要素を含んでいます。売って利益を得るのが企業であるならば、必ずぶつかる『中国の壁』ですね。多くの日本企業では、わかってはいるけれど見て見ぬ振りをしているのが実情ではないでしょうか。ただ私も個人的にはこの総経理はやり過ぎだと思いますね。
by Tobermory (2005-07-18 22:28) 

くま

難しい問題ですよね。オイラのところはローカル相手では
窓口担当にバックマージンだしてるし
キーマンには、饅頭の下に小判を入れたりもしますよ
その逆も多分あるんでしょうが、商売が成り立っているうちは
まあしゃあないわな~って思ってます。
疑ればキリないし、調べるのも手間隙ないし。。。
最後はQCDって話なんですが。。。まだまだこのノリが続くんでしょうね。
15年前なら、日本も同じだったんですから。。。
そういう意味では、60歳近い方々の中には得意な方もいるのかな。。。
ちなみに、オイラは小心者なので。。。
悪代官にはなれない。。。悪徳商人止まりです^^;
by くま (2005-07-20 00:44) 

Tobermory

ま、われわれも遊びで中国に来ている訳ではないので、売るためにはそういうこともやらざるを得ませんよね。ただ(あくまで)建前上、私のところでは禁止しています。これは現地にいる日本人を保護する目的でもありますが。結局、売れなくても問題が起きても、どちらも私の責任だと言うことです(あー腹立つ)。
by Tobermory (2005-07-20 20:58) 

NO NAME

ちょっと矛盾してませんか?
張本人がその日本人総経理ならなぜあなたを呼び出して割高の価格について話してあったのですか?
by NO NAME (2006-11-03 00:47) 

ぽー

上記の人!違うって!呼び出して割高の価格について話してあったのはA部長ですよ。
その上に総経理がいるの!
by ぽー (2007-08-04 15:37) 

中国駐在

中国で仕事していると堂々とキックバックの話をしてきますね。私はその分卸価格を安くするようにお願いするようにしています。その分お客様にも還元できるし、こちらの良心も潔白を保てます。
by 中国駐在 (2009-10-12 21:37) 

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