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中国に嫁いだ日本人

 もう数年前になりますが、取引先の人とふらりと入ったクラブのママは30がらみのきれいな日本人でした。

 ほかに客もなく、当時はママが日本人というのもちょっと珍しかったので話をすると「私は中国人と結婚しちゃったから、がんばってダンナを養っているんです」と言います。私が笑って「ダンナさんはヒモなの?」と尋ねたら、「養っているというのは冗談ですが、ダンナよりだいぶ収入が多いんです」ということでした。

 なるほど日本人と中国人が結婚するとそういうこともあるだろうなと思いながらさらに話を聞くと「でもウチのダンナは日本語もできるし、中国人にしてはかなりの高給取りだからまだマシ」で、「でもいつか帰国することになっても、年金がないことなどを考えると不安」とのことでした。

 またママは中国人と結婚した日本人女性の会に入っていました。そこでは月に一度とか、みんなで集まっては食事をしたり、おしゃべりをしたりするそうです。私が「いろんなことを相談し合えて、似たような境遇の者同士で話も弾むだろうね」と言うと、ママは「実はそうでもないんですよ」と顔を曇らせました。

 それまでは特に何と言うこともなく楽しくやってきたのだが、最近その会合のメンバーがだんだん二つのグループに分かれてしまって、楽しくなくなってきたということでした。それはどういうことか尋ねますと、会のメンバーであるひとりの女性のことを話してくれました。

 その日本人女性は上海の中心部からかなり離れたところで中国人に囲まれて生活しています。彼女のダンナは郊外出身の上海人で、ダンナが1年半ほど日本で旋盤工として研修(おそらく名目で実態は就労だと思われる)しているときに知り合い、結婚しました。子供は2人で下の子はまだ生後6ヶ月にも満たないという4人家族です。

 家庭の収入はそのダンナの収入だけで、中国人の平均よりやや高いだけの1,500元(約2万円)しかありません。彼女の家はローカルアパートで、狭い台所ともっと狭いシャワー兼用のトイレのほかは6畳程度のただ一つの部屋しかなく、そこに4人が床を並べて寝ています。しかしどんなに切り詰めてもなんとか食べていくのが精一杯です。

 彼女は結婚して初めて中国に来ましたから中国語があまり上手ではなく、子供も幼いため当然仕事にも就けません。しかしダンナの両親にとっては違います。中国では子供を産んだら嫁はさっさと外で働いて金を稼ぐのが基本です。母親が働いている間、子供はどちらかの親か近所のお手伝いさん(アーイー)が面倒を見ます。働かないで家にいると「遊んでいる」と見られます。ダンナの両親は、嫁は日本人だからさぞ給料は高いことだろうと期待していたそうです。しかし彼女は日本の普通科の高校を出ただけです。それではさすがに上海で就ける仕事はありません。

 それに彼女としてはやはり幼い子供の面倒は自分で見たい、日本人の常識で考えて、中国人の育児というのは相当なギャップを感じるものです。ダンナの両親が毎日のようにやってきては育児にあれこれ口を出し、仕事をしないことを咎めるかのような視線に耐え切れず、泣いて頼んで距離を置ける今のところに引っ越したそうです。

 彼女の家では日本の衛星放送なんかもちろん見られません。国際電話も高くつくので、日本にいる両親と話すのは向こうから掛かってきたときだけ。以前は日本にいる母親が心配して毎晩のように電話が掛かっていたそうですが、あれこれ心配されるとかえって辛くなるので、あまり電話をしないでほしいと言っているそうです。

 もちろんパソコンなんか買えるはずもないので、彼女は日本に飢えています。ですからたまの日本人同士のコミュニケーションが楽しみで、会合があるときは欠かさず子供たちを連れて遠いところを2時間近くもバスに揺られてやってきます。

 でも中国人と結婚する日本人は増えても彼女と同じように経済的に困窮している人はいない、むしろ日本人の感覚から見てもお金持ちな人が多いので、だんだん彼女はそういう会合に、同じ日本人の集まる場所に顔を出しにくくなったそうです。
 日本人が嫁いだ中国人家庭の平均収入は80年代、90年代に結婚した人たちより、00年以降に結婚した人たちの方がはるかに高いそうです。
 新しく来られた人たちは普通の日本人の感覚で、一回で数百元使うレストランやコーヒー一杯50元の高級ホテルに行きたがりますが、彼女のような家族4人で1,500元の収入しかない人にはそんなところに行くことはできません。

 彼女はいくら日本に帰りたいと思ってもそんな収入では航空券も買えません。子供が幼いので一緒に行くとなったらさらに余計にお金がかかります。日本の両親も年金生活に入っていて、とても援助できるような状態にありません。なるべく考えないようにしているけれど、ふとした時に「もう両親とは生きているうちに会えないかも知れない」と思って涙を流すことがあるそうです。

 初めて聞いた時はショックを受けました。「愛があれば・・・」という言葉はありますが、彼女が払った代償は大きすぎると思いました。


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かおり

中国では共働き家庭が普通だというのは知っていましたが、
出産後すぐに働くことを強要されるというのは驚きでした。
生まれたばかりの子供を預けて働くことを、
あまりよく思われない日本とは大違いですね。
どちらがいいんでしょう。
by かおり (2005-06-12 20:51) 

Tobermory

かおりさん、こんばんは。ちょうどかおりさんの記事を見てコメントを残してきたところでした。
稼ぐために何を犠牲にするかは個人の価値観によるものだと思いますが、どちらにしてもカネがないというのは不自由なことです。ところでこの話はもう3年くらい前の話ですから、今はどうしているのだろうと思いながら書きました。
by Tobermory (2005-06-12 21:24) 

くま

この記事を読んで、”(他人との)比較”という事を考えました。人間と言うものは、なにかに付けて、周りと自分を比較して自分の位置を確認して、満足したり、不満なために改善行動を起こします。(何もせず、愚痴る人もいますが。。。^^;)上を見ればキリが無く、下を見ても結構苦労されてる方々も多いのですが、どうしても上を見てしまうものですよね。
オイラは、悟りを開くって境地には死ぬまでたどり着けないと思いますが。。。愛する人と、雨露がしのげ、3食が取れれば。。。なんて、”今の時代”には、とても無理です(; ̄ー ̄A 良いんだか?悪いんだか?
by くま (2005-06-13 00:03) 

param

はじめまして、ひょんなことからこちらへお邪魔することになりました。これからじっくりと拝見させていただきます。日中間は文化の差もさることながら、経済観念の差からくるすれ違いも多くありますね・・・。
by param (2005-06-13 16:27) 

Tobermory

>くまさん、確かに今の時代では雨露しのいで三食喰えれば・・・というだけではかなりしんどいですよね。何の楽しみもなければ精神的に参ってしまいます。妻や子供にもそれなりの楽しみや教育を与えてやりたいと思えばこそ、お父さんは全力で働き続けるしかないのでしょうね。

>paramさん、初めまして。さっきちょっとparamさんのblogを訪ねてみたら、とても面白そうでした。過去分も含めて後ほどゆっくり拝見させていただきます。
ところで、「ひょんなこと」ってどなたかの紹介でしょうか?差し支えなければお教え下さい。
by Tobermory (2005-06-13 21:24) 

sanbonmatsu

物質的な豊かさだけが幸せの定義ではないと思いますが、日本の環境で育ったことを考えると辛いものがあると思います。
それより、「もう両親とは生きているうちに会えないかも知れない」の言葉が心にのこります。
by sanbonmatsu (2005-06-13 23:00) 

rinda

ただでさえ国際結婚は難しいと聞くのに、それほど経済・文化の違いがあるとさぞかし大変な苦労でしょう。愛があれば・・・、なかなか難しい問題ですね・・・。
by rinda (2005-06-13 23:31) 

あおい

日本人と結婚する中国人女性にはあまり無いタイプの内容ですよね。
このダンナ様が優しいからこそ2人の子供まで産んだのでしょうが、先のことを考えると、かなり「失望」に近い感情が湧きます。
何年か「経って、子供さんの手が離れるようになったら、是非とも挽回して欲しいですね。
by あおい (2005-06-14 00:29) 

Tobermory

>sanbonmatsuさん、失ってみて初めて今までの自分の恵まれた境遇を知ることがありますが、私には彼女の選択がどうしても責められません。

>rindaさん、おっしゃる通り経済的な側面だけの問題であればまだしも、彼女を取り巻く中国人と日本人の関係がある故に悩ましい部分というのはあるでしょうね。

>あおいさん、私もあおいさんの意見に全面的に賛成するものです。きっと今頃は前を向いて明るい未来を見据えていると信じます。またこの話を語ってくれたママは、こういう現実を知っているからこそ、子供を作っていないのかもしれませんね。
by Tobermory (2005-06-14 21:23) 

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